BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

29th キャプテンについて

backBtn

ジャパンラグビートップリーグのプレーオフトーナメント決勝戦は、 2月4日、秩父宮ラグビー場で行われ、東芝ブレイブルーパスが終了間際の逆転勝ちで三連覇を成し遂げた。観衆は超満員の 23,067人。その期待感に応える熱戦だった。

先に簡単に説明しておきたい。昨季まで社会人のメジャータイトルは三冠あった。
「トップリーグ」は 12チームによる総当たり戦で優勝を争い、その後、上位8チームによる独立したトーナメント 「マイクロソフトカップ」が行われ、最後に日本選手権という三冠である。
今季は、トップリーグが 14チーム参加に拡大され、総当たり戦のあと上位4チームによるプレーオフでトップリーグ王者を 決めることになった。このプレーオフにマイクロソフトの冠がついたわけだ。つまり、今季は二冠。東芝はトップリーグの三連覇ということになる。最近の日本ラグビーはシステムの試行錯誤が 続いていて、どうしても説明が多くなってしまう。いずれ落ち着くので、ご勘弁を。

今回書きたいのは「キャプテン」についてである。ラグビーという競技はいったん選手がグラウンドに出てしまったら、コーチ陣の細かな指示を得ることはできない。キャプテンが 15人をまとめ、レフリーとコミュニケーションをとり、攻撃選択を考えつつゲームをコントロールしていく。コーチという言葉には「バス」や「客車」という意味がある。選手達を港まで運ぶのがコーチの役目であり、船に乗って大海原に出航すればキャプテンがすべてを取り仕切る。 キャプテンがスキッパー(船長)とも言われる所以である。ラグビーの取材をはじめて約 20年、キャプテンになった選手が 一年で見違えるように大人になっていく姿を何度も目にしてきた。すべてを任されて先頭に立つ経験は間違いなく人間を成長させる。

東芝ブレイブルーパスの冨岡鉄平選手は、キャプテンになって5年目。2〜3年が平均的な社会人のキャプテンとしては異例の長さだ。薫田真広監督からキャプテンに指名されたとき、彼は入社2年目を終えるところだった。まだCTBとしてレギュラーポジションすら獲得していない冨岡選手への就任要請について、薫田監督は「勝ちたい気持ちを一番強く持っているのが冨岡だった。今の東芝に一番必要なもの」と理由を語っていた。 キャプテン就任2年目にトップリーグが開幕。以降、今季のトップリーグまで全 10タイトルのうち、7タイトルを獲得。 その間、日本代表にも選出され、まさに名実ともにトップリーグを代表するキャプテンに成長した。 試合後の言動は常に相手に敬意を表し、仲間を信じる力強いものが多く、毎回報道陣を感心させる。

今季、早大を常勝チームに復活させた清宮克幸監督がサントリーサンゴリアスの監督に就任するや、メディアはサントリーの快進撃に多くのスペースを割いた。王者・東芝は脇役に追いやられる。多くのチームが清宮サントリーの 勢いに飲み込まれていく中で、冨岡キャプテンは「毎回、しっかり準備すれば何回やっても負けない。一回一回チャレンジしていきますよ」と強気の発言を繰り返した。その言葉通り、総当たり戦、プレーオフともに僅差ながらサントリーを降して見せたわけだ。
プレーオフ決勝戦終了間際、東芝は、7− 13と6点差でリードを許していた。しかし、キャプテンは「気持ちが折れない確信があった」とチームメイトを信じ、相手反則で得た最後のチャンスにドライビングモールを選択をする。フォワードの選手を軸にスクラムを組むように結束して相手を押し込む戦法は東芝を強豪に押し上げた伝家の宝刀だった。
薫田・冨岡体制の5年間、身体をしたたかにぶつけあうタフな練習を繰り返し、どんな相手からもトライがとれる武器に磨き上げてきたのである。レフリーからは「ラストワンプレー」の声がかかっていた。キャプテンはチームメイトに「(トライがとれなくても)いいから、ドライビングモールで行こう」と声をかけた。選手達からは「(信頼してくれて)ありがとう」という言葉が返ってきたという。あの僅差勝負の最中に感謝の言葉が交わされていた。まさに卓越したリーダーシップと、それを支える仲間達との信頼感が生んだ決勝トライだった。
もちろん、薫田監督をはじめとしたコーチ陣のきめ細やかな指導と会社のバックアップ体制、個々の選手達の努力が生んだ三連覇には違いない。サントリーサンゴリアスのこの一年でのレベルアップも賞賛に値する。しかし、昇り竜サンゴリアスの前に立ちはだかった冨岡キャプテンの姿にラグビーにおけるリーダーの重要性を再認識した。身体を張ったプレーと、折れない心。冨岡鉄平、大したキャプテンである。