BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

35th いよいよトップ4

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パリに来てはや40日が経過した。おいしい和食が恋しくなっている。フランスをホスト国として開催中のラグビーワールドカップ(W杯)は、いよいよトップ4の激突を残すのみとなった。日本代表の試合が終わったら書こうと思っていたこのコラムも、その後の試合が面白く、区切りを探しているうちにここまで来てしまった。長らくお待たせしてしまったみなさん、毎度のことながら申し訳ありませんでした。

それにしても、今大会は面白い。メディア側の人間として1987年の第1回大会からW杯を見てきたが、こんなに驚くようなことが起こる大会は初めてだ。開幕戦で、アルゼンチンが、地元フランスを破った試合を始め、一次リーグではフィジー、トンガ、グルジアなどが大活躍。フィジーにいたっては、準々決勝に進出して優勝候補の一角である南アフリカを土俵際まで追い詰めた。個々の選手がディフェンダーと勝負しては確実にゲインしていく様子は痛快でもあった。その準々決勝では、世界ランキング1位のニュージーランドと、2位のオーストラリアが続けて敗れた。世界のラグビーを引っ張ってきた両チームが揃ってトップ4に残れなかったのは、W杯史上初めてだった。
ただ、ひとつ言えるのは、両チームがベストゲームをした試合が少ないということである。ここまでの試合は、どちらかといえば格上と目されるチームのパフォーマンスが悪く、挑戦者側が力を出し切って勝つ、あるいは接戦するというもの。弱いとされる側が予想以上に頑張るので面白いわけだが、両者がベストパフォーマンスで緊迫した試合というのは、まだ見ていない。ラグビーはボール争奪戦に特徴のあるスポーツ。ここでの攻防が勝敗を分けることが多い。体を張ったぶつかり合いは精神面の充実が表れるものだ。
実は力に大きな差がないのに受けた試合をすれば飲み込まれる。ラグビーの怖さを嫌と言うほど知らしめているのが今大会だという気がする。
両者が力を出し合う緊迫感のなかでの接戦といえば、2003年決勝戦「イングランド対オーストラリア」、1999年準決勝「オーストラリア対南アフリカ」などが、ふと思い出されるが、準決勝以降にそういう試合に出会えれば、今大会は本当に素晴らしかったということになるのだろう。準決勝のカードは、「フランス対イングランド」(10月13日)、「南アフリカ対アルゼンチン」(10月14日)。
ともにサンドニのスタッド・ド・フランスで行われる。

フランス対南アフリカの決勝戦を予想する人が多いように思うが、一次リーグの出来が悪く、チャレンジャーに徹することができるイングランドの潜在能力は計り知れないものがある。特にFWの強さ、SOウィルキンソンの攻守にわたる献身的な動き、正確なプレースキックとドロップゴールは、何かを起こす可能性を感じさせる。フランスは、いかにこの試合だけに集中できるかだろう。ニュージーランド戦は防戦一方だったが、持ち前の攻撃力を発揮したいところ。
もう一試合は、アルゼンチンの低く強いタックルが南アフリカにも刺さり続けるのかどうかが興味深い。一人目が低く入り、二人目がボールを殺す。また、タックルされた選手がパスすると、受け手の選手にもすかさず突き刺さって相手をどんどん後ろに下げていく。日本が手本とすべきディフェンスを巨漢揃いのアルゼンチンがしている。これが南アフリカに対してもできるのか、あるいは南アフリカはパスを封印して力勝負に出るのか。桁外れのキック力で勝利をたぐりよせるSOエルナンデスがベストパフォーマンスを見せればアルゼンチンの決勝進出もあるだろう。南アフリカは、FW戦でアルゼンチンに圧力をかけられれば自慢のBKを生かせる。WTBハバナも、そろそろ爆発してもいい頃だ。準決勝、決勝が行われるスタッド・ド・フランスは、8万人の集客力を持つ巨大スタジアム。この3試合とも満席は間違いないだろう。フランスが決勝戦(10月20日)に進出すればスタジアムの興奮は頂点に達する。フランスのファンとすれば、決勝戦で開幕戦の借りを返すというシナリオが一番盛り上がるのかもしれない。

今大会はどの会場に行っても観客席の盛り上がりが凄まじい。フランス人が特別声が大きいわけでもないはずだが、JSPORTSの解説席で隣にいる実況者の声が聞こえないことがよくあるのだ。世界中から各チームのサポーターが集まっているとはいえ、大多数を占めるのはフランスの人たち。こちらでは贔屓チームを持たない人たちは、必ず弱いとされるチームを応援する。それが半端な声援ではなく、試合前のウォーミングアップに登場するだけで地鳴りのような歓声が上がり、健闘したチームには惜しみない拍手が送られる。日本代表がフィジー戦で大健闘を見せたときには、トゥールーズのスタジアムは異常な歓声に包まれ、日本の選手達がグラウンド上で互いの声が聞こえなくなったほどだった。帰りの地下鉄でも大声で歌っているのは、ちょっと迷惑に感じたが、日本でも将来W杯を開催できた場合、遠来のチームに大きな拍手と歓声が送られるようになってほしいと願わずにはいられなかった。

日本代表については、大会総括とともに次回に書きたいと思います。