BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

36th W杯決勝からはや1か月

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南アフリカ代表スプリングボクスが、1995年大会以来、2度目の世界一に輝いてから、はや1か月が経過しようとしている。

日本では5年目を迎えたジャパンラグビートップリーグが10月26日に開幕。平尾誠二総監督の就任で話題の神戸製鋼コベルコスティーラーズが開幕4連勝(11月19日現在)。初昇格ながら健闘する九州電力キューデンヴォルテクス、優勝候補サントリーサンゴリアスを破ったコカ・コーラウエストレッドスパークスなど、九州勢の奮起もあってリーグは大いに盛り上がっている。
ワールドカップ(W杯)で活躍した日本代表選手達の活躍も目覚ましい。東芝ブレイブルーパスのLO大野均は激しさを増し、コカ・コーラのPR西浦達吉は持ち前のタックルに磨きがかかった。ヤマハ発動機ジュビロのCTB大西将太郎は次々にプレースキックを成功させ、CTB平浩二(サントリー)、今村雄太(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)ら大舞台で経験を積んだ若い選手達も各チームで素晴らしいパフォーマンスを披露している。
W杯のカナダ戦で値千金の同点ゴールを決めた大西は言っていた。「日本代表として出場できた僕に対し、これまで以上に激しい闘争心で向かってくる選手が多い。それを乗り越え、また来春には日本代表に選ばれたい」。日本代表のジョン・カーワンヘッドコーチは足繁く試合会場に通い、選手達のチェックに余念がない。2008年の日本代表スコッドは3月に発表される予定で、それをターゲットに各選手が気持ちを込めてプレーする好循環が始まっている。世界の大舞台で戦うこと、その戦いを見ていた選手が刺激を受けること、あらゆる意味でW杯に出場し着実に進歩していくことが日本ラグビーを成長させるのは間違いない。

さて、W杯の日本代表の戦いぶりだが、フィジー戦の最後の猛攻、カナダ戦の同点劇は見る者の胸を打った。それは組織ディフェンスの精度を高め、チームの心をひとつにしたカーワンHCの功績である。ただし、シンプルなゲームプランはあったものの、二次攻撃以降のパターンを決めず、いくつかのオプションから選手に判断させた手法は攻撃の精度を欠いた要因となった。この点は吟味されなければいけないし、得点力を高めるためのチーム作りの修正はぜひ行ってもらいたい。
フランスに約7週間滞在して痛感したことがある。パリの道路は狭く、渋滞になると車線などまっく関係なくどんどん割り込んでくる。
多少車同士がぶつかっても気にしないくらいだ。少しでもスペースがあれば割り込んでくる感覚は日本人にはないものだ。その車の突っ込み具合に僕はフランスラグビーの変幻自在のサポート感覚を見た気がした。これは日本には真似できない。やはり車線をきっちり守った整理されたラグビーが日本には向いている。日本の国民性を本当の意味でチーム戦術に生かしてもらいたいと、渋滞に巻き込まれながら感じた。

カーワンHCの任期は2008年いっぱい。その後のことは決まっていないが、できるだけ早い時期に2011年まで続投するのか否かの結論は出すべきだと思う。これはカーワンHCの望みでもあるし、監督を代えるにしても、少なくとも3年以上の準備期間は与えるべきだ。
2003年から2007年大会まで、指揮官が3名交代した愚行は絶対に繰り返してはならない。
W杯を制した南ア代表のジェイク・ホワイト監督は、2004年に就任した。そして、主力メンバーは変えずに戦ってきた。経験豊富な選手が揃っていたのは優勝の最大の要因だった。前回のコラムは準決勝の前に書いたのだが、危惧した通り、開催国フランスはイングランドに敗れた。ラポルト監督の采配ミスだろう。準々決勝でNZ代表を破るため、SOボクシス、FBトライユというキック力重視のメンバー編成をしたはずなのに、まったくタイプの違うイングランドに対しても同じプランで戦った。もっと攻撃的に戦えば勝っていただろう。フランスがフランスらしさを失っては勝てない。
大会全体を振り返れば、開幕戦でアルゼンチンがフランスを破ったことが、すべてに影響を与えていた。フランスが一次リーグを1位通過すれば、準々決勝でNZと対決することはなかったし、イングランドの決勝進出もなかっただろう。そのアルゼンチンが、南アとの準決勝だけ、戦い方を変えたのは興味深い。疲れもあったようだが、いつも通りSOエルナンデスのキックを軸に組み立てればもっと競った試合になったはずだ。それでも、フランスとの3位決定戦のプレーは見事だった。フランスのお株を奪う素速い展開とスピードあるサポートプレー。もし、この試合を見ることが可能であれば、ぜひご覧いただきたい。手本になるプレーが満載である。
パリのメイン会場スタッド・ド・フランスに舞ったゴールドの紙吹雪。エリスカップを掲げたジョン・スミット主将、そして大会最多の8トライをあげたWTBブライアン・ハバナの満面の笑み。もう遠い過去のようだが、実は、僕の時差ボケはまだ続いている。朝早く起き、夜は11時くらいに眠くなるのだ。でも、本来はこれが健康的な感覚。もしかすると長いフランス生活のうちに僕の体がリセットされたのかも。次回のコラムまでに、僕の体内時計がどうなっているか、またご報告したい。