BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

38th 試験的ルール採用

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2008年最初に書いたコラムから、あっという間に2か月が過ぎ去った。大学は早稲田が優勝し、トップリーグはサントリーサンゴリアスが、プレーオフトーナメントで三洋電機ワイルドナイツを下して優勝した。残るは日本選手権準決勝、決勝である。すでに2008年度日本代表スコッド52名も発表された。4月初旬にここから30名に絞り込まれ、4月26日から始まるアジア5か国対抗、6月のパシフィックネーションズカップに臨むという。今季は、メンバーを絞り込んだ形で試合を重ねるようなので最初に選ばれるメンバーに注目が集まる。

国内シーズンは、残すところ日本選手権だけになっているのだが、南半球では、世界最高峰のエンターテインメントラグビー「スーパー14」が開幕した。NZ、オーストラリア、南アフリカのプロ・クラブが総当たり戦の末、4チームによるプレーオフで優勝を決める選手権だ。
今季の注目は試験的ルールの採用である。細かく書くとキリがないのだが、簡単に言えば、IRB(国際ラグビーボード)が推進しようとするルール改正を部分的に採用したもの。ラグビーという競技をよりスピーディーに、観客から見て分かりやすくするためのルール改正は、すでに世界各地で試みられているのだが、世界のトップ選手が集う大会で採用されるのはこれが初めて。来年か再来年に正式なルール改正が行われるのだが、その実験として注目されている。
当初は、スクラムのオフサイドラインを5m下げる改正がどうゲームに影響を与えるのか関心が高かったのだが、スーパー14を見てみると、このルールはさほど大きな影響を与えていない。むしろ、オフサイドと危険なプレー以外の反則がペナルティキックからフリーキックに変更されたこと、そして、22mラインの内側にボールをパスで戻して蹴るとダイレクトタッチになってしまう改正が、大きな影響を与えていることが分かる。
これまでは、相手が反則をしたペナルティキックからは、タッチキック→マイボール・ラインアウト→モール、というパターンが多かったのだが、これはほとんと見られない。フリーキックからのタッチキックは相手ボールになるので、フリーキックを得ると間髪を入れずに速攻を仕掛けるか、スクラムを選択するチームがほとんどだ。
また、これまで22mラインの周辺では、パスで22mライン内にボールを戻してからタッチキックを蹴って陣地を稼ぐことが多かったのだが、ダイレクトタッチだと蹴って地点に戻されてしまうため、安易にタッチに出せず、したがってカウンターの仕掛け合いも増えた。このルールをポジティブに解釈して、運動量を高め、攻撃的に戦っているチームは好調。ニュージーランドのクルセイダーズ、ブルーズ、南アフリカのシャークスあたりは、積極的にボールを動かしている。
すでにこのルールには賛否両論が出ている。賛成派は、ゲームのスピードアップを喜び、反対派は、あまりに早い展開で、ラグビー独特の「間」がなくなり、フィジカル面ばかりが強調されるスポーツになってしまうという懸念も持つ。ただ、クルセイダーズのロビー・ディーンズ監督の「まだ結論を出すのは早すぎる」という言葉が正しい気がする。

まだ各チームとも、ルールを消化しきれていないし、レフリーも順応しているとは言い難い。プレーオフは、5月23日、24日、31日に行われる。それまで毎週、新ルールでの激闘が繰り広げられる。JSPORTSで全試合放送されるので、ぜひ一度ご覧いただきたい。
僕はこのルール改正を歓迎する。日本ラグビーにとっても、フリーキックからの速攻の機会が増え、スクラムからの攻撃の多くもゲインを切れることになれば、攻撃のオプションはかなり増える。ラインアウトが減ることも身長差に苦しむ日本にはいい材料になる。
「新しいルールは日本に向いている」とは、ジョン・カーワン日本代表ヘッドコーチの言葉だが、スクラムのオフサイドラインが5m下がったことを効果的に利用しての攻撃や、フリーキックからの速攻を準備しておくことで日本の活路が開ける気がする。
ただし、日本代表が関わる試合でのルール改正は早くとも来週のアジア5か国対抗だ。すでに南半球のトップ選手が2シーズンに渡って経験しているルールを日本の選手は、そこで初体験することになる。ここは、正式な改正の時期を見計らいつつ、日本のトップリーグでも早い時期での導入を検討すべきと思う。今年からでもいい。
2011年ワールドカップまでになんらかのルール改正が行われるのは間違いない。その情報をできるかぎり正確に入手した上で、トップリーグでの試験的ルール導入を考えるべきだろう。受け身のルール改正では出遅れる。世界のトップ8を目標にする大会で、「ルールに不慣れで負けた」という言い訳はしないように準備をしてもらいたいと願う。

前回のコラムで触れたハイネケンカップ(ヨーロピアン・カップ)は、トップ8のノックアウト方式のトーナメントだけを残すのみになった。4月5日、6日に準々決勝が行われる。カードは次の通りだ。準決勝は、4月26、27日、決勝は5月24日となる。こちらルールは旧来のもの。スーパー14と見比べるのも面白い。JSPORTS視聴可能の方はぜひともご覧いただきたい。

4月6日=サラセンズ(イングランド)対オスプリーズ(ウエールズ)
4月5日=グロスター(イングランド)対マンスター(アイルランド)
4月5日=ロンドン・アイリッシュ(イングランド)対ペルピニャン(フランス)
4月6日=トゥールーズ(フランス)対カーディフ(ウエールズ)