BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

50th 温かい観戦を

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年の瀬である。前回のコラムから、あっという間に2カ月が経過した。ブレディスローカップ東京は4万人以上の観衆を集め、日本代表はカナダ代表に連勝して世界ランキングを13位に上昇させた。NECグリーンロケッツ所属の土佐誠選手は、オックスフォード大学に留学し、ケンブリッジ大学との定期戦ヴァーシティマッチに途中出場、日本人4人目となる名誉の称号「ブルー」を得ている。拙著「ラグビー愛好日記3 トークライブ集」(ベースボール・マガジン社刊)の発行イベントなどもあって、ほんとに早い2か月だった。まだお読みでない方はぜひ。ゲストのみなさんが、面白い話をしてくださっています。

そして今、50回目の記念すべきコラムを書いている。きょうは、12月24日、目の前にはトップリーグ12節、全国大学選手権2回戦、全国高校大会の開幕が迫っている。
上位陣が実力横一線の大学選手権は、1月2日の準決勝の前売り券の売れ行きも順調とのことで、ファンのみなさんの期待感も高まっているようだ。観客が最も入る、という観点だけで考えると、「早稲田対明治」、「東海対慶應」のカードだと思うが、「帝京対関西学院」、「天理対法政」もあり得る実力差なのは間違いない。僕は選手権に入る前は、早稲田の三連覇の可能性が高いと見ていた。しかし、主力に負傷者が多く、その気持ちが揺らいでいる。2回戦の帝京戦が最大の山になるだろう。
関西ラグビーで育った身としては、関西の大学が復調傾向にあるの嬉しい。2回戦に進出した関西学院、天理ともに、よく前に出て低いタックルを決め、グラウンドを横幅一杯に使っての展開力がある。強力FWを前面に押し立てて関東勢と戦ってきた同志社、京産、大体の3強時代からの変化は、身体の小さな選手が多くなった関西大学Aリーグの現状を表している。現在、大型選手は東の強豪チームに流れている。それを逆手にとった展開ラグビー志向なのだが、そのチームが上位にいるのは悪い傾向ではない。展開力としぶといディフェンスが磨かれれば、FWの強化次第で関西勢が再びトップ4の常連になる可能性は高まるからだ。パワーに頼らない2チームが今年どこまで行けるか、27日の戦いぶりをじっくりと見たい。

全国高校大会は春の選抜大会・王者、東福岡の力が図抜けている。Aシード(東福岡、常翔学園、桐蔭学園)、Bシード(東海大仰星、大阪朝鮮高級、御所実業、長崎南山、大分舞鶴、仙台育英、茗溪学園、流通経済大柏、國學院久我山、東京)が軸になるが、東福岡のラグビーは高校生離れしている。FWはパワーだけではなく、走力もあり、SO加藤俊介がタイミングのいいパスでチームメイトを自在に走らせる。CTB布巻峻介は、7人制日本代表の練習生として特別枠で選出されるほど高い能力を持ち、強さを上手さを兼ね備えたプレーは必見だ。
この高校大会だが、大学やトップリーグとはルールが少し違うので注意が必要である。スクラムが1.5m以上押せなかったり、試合の登録メンバーは25名だったりというのは分かりやすいが、まだ身体が完全に出来上がっていない高校生の重症事故を撲滅する目的から、安全性への配慮が大人の試合より細やかになっている。
最近のラグビーでの重症事故はタックルのところが多いので、頭が下がりすぎたり、相手の足の前に首を入れる通称「逆ヘッドタックル」などはレフリーが注意し、時には反則をとる。また、モールやラックでも、頭が自分の股関節より下に来るような姿勢でいると相手の当たりを後頭部で受け、首にダメージがあるなど危険なので反則になる。このあたりは、厳しいと感じても選手の安全性を守るためなので温かい目で観戦したい。
このコラムでも何度かレフリングについて書いてきた。上記のような取り決めがあった場合に、いつも気になるのは、レフリーのみなさんが過剰に反応して反則を取りすぎてしまわないか?ということだ。高校大会は、若いレフリーにとっても晴れ舞台。ここを目指してレフリーになる方も多いと聞く。だからぜひ、その喜びが表れるような楽しい、温かい笛を期待したい。「温かい笛」というのは、選手を気分良く安全にプレーさせる優しい笛のことだ。選手も緊張しているところに、これまで取られたことのないような反則を次々にとられてはパニックになって力が出し切れない。ぜひ、コミュニケーションを取りながら、注意で済むところは済ませつつ、ゲームをうまくコントロールしていただければと思う。
観戦者も、レフリーの判定にその都度疑問を抱いていてはゲームを楽しめない。一番近くで見ているレフリーを信頼し、夢舞台でただひたすらラグビーに没頭する選手達を温かく見ていただければと思う。

次回は、各種全国大会、トップリーグが終了してから書くことになる。人々の記憶に残る試合がたくさん生まれることを期待して、僕もラグビー取材に没頭したい。