BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

世界を見据える東福岡

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50回目の記念コラムから、51回目まであっという間に時が過ぎた。我ながら驚いている。待っていてくださった皆様、本当に申し訳ありません。
前回コラムの最後にこう書いた。「次回は、各種全国大会、トップリーグが終了してから書くことになる。人々の記憶に残る試合がたくさん生まれることを期待して、僕もラグビー取材に没頭したい」。
その言葉通り没頭した。東福岡高校の盤石の花園制覇、帝京大学の大学初制覇、東芝ブレイブルーパスのトップリーグ連覇、三洋電機ワイルドナイツの日本選手権三連覇。福岡で開催されたオールスターでは元木由記雄選手の引退セレモニーに涙。没頭しているうちに、すでに春の選抜高校大会で東福岡が新しいチームで大会史上初の連覇を達成した。そして僕は、3月下旬、23年ぶりに京都市民に復帰した。
3か月ほどで身のまわりに起こった出来事は、あまりにも多くて内容が濃すぎた。というわけで、まとめて書くのを諦め、2010年4月に入ってからのことを書きたい。

4月1日〜7日、埼玉県の熊谷ラグビー場で開催された第11回全国高校選抜大会の東福岡の勝ちっぷりには感心させられた。トップ8による決勝トーナメントを取材したのだが、最近の高校生チームは、別次元にレベルアップした気がする。ただし、高校生の競技人口は減っているし、15人揃わない学校も多い。あくまで、花園常連校の中での話である。
過去5年、選抜大会を制した高校の中で3チームまでが冬の花園も制している。勝ち進むチームはどんどんレベルの高い試合で力を上げ、勝てないチームは試合数が少なくなり、その差がどんどん開く。ノックアウト方式のトーナメントが多い日本の高校ラグビーの長年の課題なのだが、皮肉にも、限られた強豪チームが一年に何度も対戦して切磋琢磨し、戦い方を工夫し、質の高い選手を育て、日本の高校ラグビーを牽引する結果となっている。
選抜大会で優勝した東福岡には何度も驚かされた。ほとんどキックを使わず、自陣深くからでもひたすらにボールをつなぐのだ。谷崎重幸監督は言う。「ワールドユース(毎年、福岡県宗像市で開催される高校生の世界大会)で世界の強いチームと戦うと、いったんボールを渡すと取り返せないんですよ。タッチキックで陣地を獲得しても、相手ボールのラインアウトから攻め込まれてばかりでは意味がない。小さなチームが世界の強豪に勝つためにどうすればいいのか。攻撃権を放棄して、地域を獲得していいのか、ということです。それに、自陣から回すのは相手にとっては脅威なんですよ」
今回の東福岡は、ゴールデンウィークのワールドユースで世界に勝つことを視野に入れているかのように、ひたすらボールをキープして攻めた。攻めることが分かっているから、相手のタックルの餌食になってしまうのだが、それでも、東海大仰星(大阪)、桐蔭学園(神奈川)、大阪朝鮮のチャレンジを退けた。決勝の大阪朝鮮戦に至っては、タックルの圧力にじりじり下がり、自陣深くまで追い込まれながら、3分に及ぶ攻撃で切り返し、決勝トライに結びつけた。

タックルされても簡単に倒れず、タックルされた選手に身体を密着させてボールをもらう近接サポートで前進し、いつのまにか攻めるための大きなスペースを作ってしまう。スペースを作るイメージがチーム全体に共有されているのだ。見逃せないのは、ディフェンスもいいことである。実際、東福岡は練習の多くの時間をディフェンスにあてているという。その東福岡を苦しめた各チームもみんなディフェンスが良かった。東福岡の強さを各チームが分析した成果だろう。
早くも冬の連覇に期待が高まるが、東福岡の水上彰太キャプテンは言った。「連覇より、目の前の試合を楽しむ。周囲への感謝を忘れず、自分達の責任を追求することが、結果につながると思います」。そして、目前に迫ったワールドユースについては、「出るからには優勝を狙います」と言い切った。強豪国の高校生に東福岡がどこまで通用するのか、楽しみな大会だ。もし、そこでも優勝してしまったら、今季の東福岡を倒すのは至難の業ということになる。この大会には、東海大仰星、桐蔭学園、大阪朝鮮、伏見工業など冬の花園の優勝を争うチームが出てくるので、ぜひご注目を。

最後に日本代表のことに少し触れたい。5月に開催されるアジア五カ国対抗は、来年、ニュージーランドで開催されるワールドカップのアジア最終予選を兼ねている。日本代表の予選突破は確実視されており、2010年9月初旬から始まる本大会で、ニュージーランド、フランス、トンガ、カナダのいる組で一次リーグを戦うことが濃厚だ。日本の目標は本大会での2勝以上である。
4月2日〜14日にかけて、日本代表は宮崎県で強化合宿を行った。アジア予選、その先の本大会での勝利に向け、現代ラグビーラグビーで勝敗を分けるフィットネスを高めるため、厳しいトレーニングが行われた。数日取材したのだが、印象的だったのは、外国人コーチ、選手の使う日本語がいつのまにか格段に進歩していることだ。東海大のマイケル・リーチ選手や、三洋電機のホラニ・龍コリニアシ選手など、高校や大学から来日した選手の日本語は何の問題もないのだが、社会人になってから来日した選手はなかなか日本語だけでコミュニケーションをとるのが難しかった。
しかし、今やルーク・トンプソン選手(近鉄ライナーズ、来日5年目)は日本語で冗談を言うし、ライアン・ニコラス選手(サントリーサンゴリアス、来日6年目)などは、ある新聞の取材にすべて日本語で答えることにチャレンジしたという。ワールドカップの国代表選手規定は国籍を問わない。日本で3年以上プレーした選手なら何人でも日本代表になることができる。その選手達が軸になっている現在、世界ランキングを史上最高位の13位まで上げた日本代表に複雑な思いを抱いているファンは多い。それは十分に理解できる心情なのだが、そのことを知る外国人選手達が懸命に日本の心を、日本人を知ろうと言葉を覚え、日本国籍まで取得しようとしていること、その真摯な努力のことも知ってもらいたいと思う。今合宿を取材して、印象に残ったことの一つとして書き記しておくことにした。

次回のコラムは、春の日本代表活動期間中に書きたいと思う。