BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

責任感

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8月は、主要チームの夏合宿取材で北海道の網走や長野県の菅平高原に出かけた。トップリーグは東芝ブレイブルーパスと三洋電機ワイルドナイツの強さが際立っていた。同時に、いくつかのトークイベントで進行役を務めた。8月14日には、菅平のチャリティイベントで、東福岡の谷崎重幸監督と、東海大仰星の土井崇司監督が顔を揃えるイベントがあった。ともに高校日本一にチームを導いたことがある名指導者である。

東福岡は冬の全国大会に続いて、春の選抜大会も制し、今や高校ラグビー界で最も注目されるチームになった。自由奔放な攻撃と安定した強さを両立させる谷崎監督に、「あんなチームをどうやって作るのですか?」と聞いてみると、「ティーチングとコーチングの違いです」と話し始めた。「コーチは選手が目的を達成するために手助けをする役目です。スポーツは楽しむものでしょう。一番楽しいのは状況判断することです。答えを出せばティーチングになる。東福岡は答えがないんですよ」。対する土井監督は、「僕はそういうチームをティーチングで作りたいんですよね」と語る。谷崎監督にしても、高校からラグビーを始める選手ばかりが部員であれば指導方法は違ってくるだろうし、このあたりは興味深い話が続いた。どちらも、指導に対する情熱、生徒に対する愛情を感じた。
話は多岐に及んだが、最も印象的だったのは谷崎監督の「大人の責任は、子供に何を残してやれるか」という言葉だった。本コラムでも過去に取り上げたことがある「サニックスワールドラグビーユース大会」は、ゴールデンウィークに福岡県宗像市で行われる単独高校チームの世界大会である。世界各国のチームと交流することで、日本の多くの高校生達が刺激を受け、のちに優秀な選手に育っているし、生涯の友を得ている。実はこの大会を発案したのは谷崎監督だった。
東福岡高校は私学の利点を生かして、ニュージーランドへの留学や遠征で積極的に高校生に海外経験を積ませている。当初は高校3年生を遠征に行かせていたのだが、今は高校1年生を行かせるのが原則。「高校3年で経験しても、すぐに卒業ではそれを生かす場所がない。

1年生で行けば、その経験を高校生活の中に生かして行けるでしょう」。子供達がどうすれば大きく伸び伸び育ってくれるか。考えの軸足はそこにある。「孫の代になってはじめて何を残してやれたのかが分かるのかもしれません」。谷崎さんが、ワールドユース大会で蒔いた種はすくすくと育ち、今では世界の高校生が参加を熱望するイベントに成長している。子供達に何を残してやれるか、そう考えて積み重ねた結果、チームも強くなっていった。理想の形かもしれない。
「大人の責任」。襟を正したくなる言葉だ。ある熱心なラグビーファンの方から、「村上さん、結局のところ、ラグビーで一番大切なものは何ですか?」と質問をされたことがある。口から出た答えは「責任感」だった。ラグビーは、激しいコンタクトプレーをともなう。
大きな選手が突進してくれば恐怖心が出る。それでも仲間を裏切らないために身体を張ってタックルする。ボールを持って走っているときに捕まったら、必死にボールを抱えて仲間が来るまで我慢する。責任感のない選手ほどラグビーで役に立たないものはない。ただし、このスポーツに真摯に向き合えば自然と責任感は養われる。フィールドを離れた人生でもそれは生かされる。

8月21日、大阪市立大学医学部ラグビー部の創部60周年祝賀会で嬉しい言葉に出会った。ラグビー部の礎を築いた元監督の「仲間に対する燃えるような責任感」という言葉が紹介された。ラグビーで勝つために大切なこととして語られたのだが、同クラブの前会長だった松岡好美さんは、それを「患者に対する燃えるような責任感」と置き換え、医者としての心得を現役学生に説いていた。松岡さんは脳神経外科の先生なのだが、若い頃は臨床医として、それこそ眠るヒマもないほど患者に向き合い、多くの命を救った。「この人の命を助けないとと思うと、そのことに没頭しますからね」とおっしゃっていた。

責任感。広辞苑には、「責任を重んじ、それを果たそうとする気持」とある。責任というとネガティブにとらえる人が多いかもしれないが、責任を果たすというのは、やり甲斐のある楽しいことのはずだ。子供や孫、仲間に対して、我々は責任を負っている。自分の責任とはなんだろう。改めて考えさせられる夏だった。9月から、ラグビーシーズンが始まる。責任感の強いチームが最後に勝ち残る。それは断言しておきたい。