BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

59th 日本代表について

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第7回ワールドカップ( W 杯)の開催まで、約1カ月に迫った。 9 月 9 日、新装なったオークランドのイーデンパークでは、ニュージーランド代表オールブラックス対トンガ代表の開幕戦が行われる。日本代表は現在、イタリア遠征中で、最後の仕上げ段階に入っている。
7 月初旬に行われたパシフィックネーションズカップ(日本、フィジー、サモア、トンガ)での優勝は、 W 杯キャンペーンの盛り上がりを考えれば喜ばしいことだし、内容的に疑問符がつきながらも優勝できたことは、底力がついた証明なのだが、秩父宮ラグビー場で行われたサモア代表戦の戦いぶりがどうしても気にかかる。
サモア代表は 7 月 17 日にオーストラリア代表を破ったことでも分かるように、波に乗れば世界 4 強の国々すら倒す力を持っている。その相手に、試合の序盤に受けてしまったところに、現在の日本代表の精神的な甘さを感じるのだ。この甘さがなくならないかぎり、 W 杯本番での勝利はないと断言したい。ただし、実力を 100 %出し切れば、今の日本代表は、トンガ、カナダに勝てるし、フランス、ニュージーランドとも互角に戦える部分を持っている。立ち上がりに相手を驚かせ、混乱させるような試合運びで過去最高の 2 勝以上を狙ってもらいたい。

日本代表の最終メンバー発表は、 8 月 22 日になる。発表記者会見の様子は JSPORTS で放送される予定だ。日本代表のことを語るとき、最近は枕詞のようにでてくる外国人選手の多さについては、「ラグビーは所属協会主義なのだからいいではないか」、「外国人選手が多くなれば日本人選手が育たない、なにより日本代表とは言えない」など、さまざまな意見がある。僕は、ラグビーの所属協会主義を認めるし、国籍は問題にしない立場をとる。僕がもし日本代表クラスの現役選手で、同じチームに代表資格があって僕より上手な外国人選手がいたとする。外国籍という理由で彼は選ばれず、日本人という理由で僕が選ばれたら、複雑な心境になるだろう。

この問題を考えるとき、いつも思い出すことがある。元日本代表の坂田好弘さんは、 1969 年、己の力を試そうと、ラグビー王国ニュージーランドに渡った。まだ同国に日本人が数名しか住んでいなかった頃である。カンタベリー大学クラブに所属した坂田は、そこからカンタベリー州代表、 NZ 学生選抜など、さまざまな代表に選出され、最後には、同国のファンから「サカタを南アフリカに連れて行け」と、南アフリカ遠征のオールブラックス入りさせろ、という声まで巻き起こる。当時、ニュージーランドに渡って数試合だけした坂田をカンタベリー州代表に選んだセレクターのモリー・ディクソンさんに話を聞いたことがある。「坂田のようなステップを踏む選手はニュージーランドにはいなかった。彼を見逃す手はありませんでした。彼が日本人であろうと、サモア人であろうと、そんなことは関係がなかった。必要な選手を選んだのです」。ラグビー王国の人々は寛容でフェアだった。

外国人問題を突き詰めて考えると、結局は、日本代表の独自性ということに行きつく。よく言われる、「日本らしいラグビー」とは、欧米に対して体のサイズやパワーではどうしても劣勢になるチームの工夫された、日本の文化に根ざしたラグビーだ。他国とは違うスタイルで戦うからこそ、波乱の勝利を挙げることもできるし、世界を感動させることもできる。このスタイルを築きあげようとすれば、日本代表には日本人が多くなるし、韓国や台湾といった日本人と同じような特性を持つ選手が軸になるはずである。そこに、ニュージーランドでの坂田のように勝つために必要な技術を持った選手を加える。国籍ではなく、どんなスタイルを目指すのかという視点が大切だろう。

PNC で見られた胸のすくトライも、田中史朗、日和佐篤といった小さな SH の早いテンポのパスまわしから生まれた。 W 杯までの時間に、この部分をさらに磨いて世界に勝負してほしいと願う。

後は告知です。 9 月中旬に岩波ジュニア新書から「仲間を信じて ラグビーが教えてくれたもの」を出版予定です。 6 人のラグビー人の成長物語です。中学生、高校生向きではありますが、子育てに悩む保護者のみなさん、学校の先生にも読んでいただきたい内容です。ぜひご一読ください。