BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

ラグビー人よ、誇りを持て

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なぜ霜村誠一は日本代表に選ばれないのか、あるいは、参加しないのか。そう思っていたラグビーファンは多いだろう。関東学院大学黄金時代のFB、CTBであり、パナソニックワイルドナイツでも、攻守に安定感あるプレーで「ミスター・パーフェクト」と呼ばれ、常にチームの中心にあった。日本代表では2004年のスコットランド代表戦でデビューしたが、その後は怪我などもあってキャップ数は「3」にとどまり、2007年の香港代表戦を最後に、テストマッチ、日本代表から遠ざかっていた。
2007年からのジョン・カーワンヘッドコーチ体制下では、招集されたときに怪我が多かったこと、外国人選手、大型選手が重用されたこともあり、175㎝の霜村は遠ざけられた面があった。2012年からのエディー・ジョーンズヘッドコーチ体制下でもこれまで選出はなかった。ところが、4月27日、アジア五カ国対抗の韓国戦に向けた東京合宿から招集されたのである。ジョーンズHCは、31歳の霜村を選出した理由を説明した。「今の日本代表は若い選手が多く、経験のある選手が必要です。霜村は昨シーズン素晴らしいパフォーマンスを見せた。プレーに安定感があり、ミスが少なく、いいディフェンダーでもある。パナソニックは彼がいる、いないで、まったく違うチームになります」
実は、昨年もチームスタッフを通じてジョーンズHCから代表招集へ打診はあった。しかし、怪我のために満足なプレーができないと判断して辞退していた。国内シーズン終了後の3月上旬、再び、エディー・ジョーンズヘッドコーチから「会って話をしないか?」という連絡を受ける。指定された場所に行くと、「来たということは、代表になる気持ちがあるということだね」と喜ばれた。
「経験を伝えてほしい」。その言葉に「挑戦したい」という思いがふつふつとわきあがった。「昔は自分のことしか考えていませんでした。代表の価値も軽く見ていたと思います。でも今は、エディーさんのジャパンに入りたいと思う。エディーさんのコーチングも学びたい、その中でプレーしたいと思いました」

日本代表に参加したチームメイトの田邉淳選手から日本代表の練習を教えてもらい、一昨年までジョーンズHCが陣頭指揮をとっていたサントリーの選手からも、質の高い練習内容を聞いていた。そして昨秋、ヨーロッパ遠征でグルジア、ルーマニアを破った日本代表を心からいいチームだと思った。「試合前から、こいつら、やってくれるんじゃないかという期待感がありました。エディーさんが積み上げているものが分かるチームです」。
スーパーラグビーの舞台に立って懸命にプレーする田中史朗、堀江翔太の姿も背中を押してくれた要因の一つだ。「田中は以前から日本のラグビーを盛り上げるために、各方面から力を尽くしている。僕も盛り上げる場に関わって少しでも力になれればと思います」。
いま、霜村は代表に選ばれる重みを感じている。経験を若い世代に伝える義務感もある。常に日本一を争う場で経験を積み重ね、人気低迷気味の日本ラグビーを憂うからこその境地だろう。世界屈指のラグビー指導者であるジョーンズヘッドコーチの指導を受けたい選手は多く、日本代表の求心力は急速に高まっている。日本代表が日本で最高レベルのトレーニングをし、参加した選手がそのノウハウを各チームに持ち帰って日本ラグビー全体のレベルを押し上げる。霜村誠一の代表参加は、当たり前だが、これまでになかった流れが出来つつあることを証明するものでもある。
「本当に、あと1、2年で引退しようと思っていました。選ばれるなら、どこまでやれるか挑戦してみたい。ジャパンは強くなければいけないと思うし、自分のことだけでなく、周りのことも考えながらやっていきたいです」。同学年の友人でもある廣瀬俊朗キャプテンは、昨春からのトレーニングでスピードアップに成功している。2学年上の菊谷崇は体重を筋肉で増やして運動量も上がった。栄養、睡眠など規律正しく管理された環境でのトレーニングで日本代表選手のパフォーマンスは着実に上がっている。ミスター・パーフェクト霜村誠一がどこまで成長するのか。日本代表を見る楽しみがまた一つ増えた。