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2007.05.7 コラム

 
第33回 「ひねりのあるラグビー」
 

 ラグビーはウインタースポーツ、僕はそう教えられて育った。でも、いまやラグビーは季節を問わず行われるようになっている。日本ラグビーを例にとれば、本格シーズンは、9月〜2月だが、3月〜6月は日本代表の試合と、各社会人、大学の招待試合などが組まれ、7月、8月は夏合宿でチーム作りが行われている。9月7日開幕のワールドカップを控えた日本代表は、7月15日〜22日まで北海道・中標津で夏合宿である。

 さて、今回は、先日、『ラグビーファンマガジン』というフリーペーパー(7月下旬に全国で配布予定)での取材で印象に残った言葉のことを書きたい。
「ラグビーファミリーの肖像」というコーナーで、マイク眞木さんと、真木蔵人さん親子を取材したのだが、お二人とも、ラグビーが大好き。その時に、蔵人さんから「ラグビーって、ひねりがあるんだよね」という言葉が出た。分かりにくいところがあるから人気が出にくいという話の時に出た表現だ。

 ラグビーは、「ルールが分かりにくい」とよく言われるのだが、スクラム、ラインアウト、モール、ラックなどなど、それぞれのポイントでボールの奪い合いをスムーズにするために、さまざまな決まり事がある。まして、選手たちは、それぞれのポイントで優位に立つためにあらゆる手段を使って戦っているわけで、それこそ反則すれすれのこともやるから、見ている方には、何が良くて何が悪いのかさっぱり分からないということになる。しかし、この微妙な駆け引きが少し分かり始めると、その人にとって、ラグビーは何度見ても飽きないスポーツに変身するのである。だから、できれば「ラグビーはつまらない」と判断するのは、10試合くらい見てからにしてもらいたいものだ。

 極論すれば、ラグビーのルールは曖昧だ。反則があっても、それが相手側の有利に働けば笛は吹かれないし、その有利さの判断基準も状況によって差がある。この手の原稿を書くとき、僕が必ず引用する言葉がある。元日本ラグビー協会会長の川越藤一郎さん(故人)にインタビューした時のものだ。ラグビーマガジン1992年10月号に掲載された。
「日本はルール(規則)と言いますが、海外ではロー(法)なんです。このローには深い意味がありましてね。日本の法律はドイツ憲法から来ているんで、文章が非常に大きな意味を持つんです。英国の法律は習慣法だから、文章では決められているけど、実際の事例はこうだから、と柔軟性がある。だから、日本人はルールの解釈が偏って、束縛されてますね。おそらく文字通りに笛を吹いたら反則だらけですよ。それを平気でゲームができるのは、英国は習慣法だからです」

 いま、ラグビーの世界普及を目指すIRB(国際ラグビーボード)は、競技規則をわかりやすくするための努力を続けている。数年後には、あの密集戦のごちゃごちゃも整理されるかもしれない。プロ化の進む世界のラグビーの中で、コーチや選手にとって試合の結果は報酬に直結する。だから判定の誤りはどんどん許されなくなる。レフリーも、おおらかに笛を吹く時代ではなくなるのかもしれない。ただし、ローの精神はずっと変わらないだろう。ラグビーは「ちょっと、ひねりのある」スポーツであり続けるのだと思う。

 ここからはラグビー愛好家としての戯言だが、僕は曖昧さを愛する。「この試合の流れからして、これくらいのオフサイドはいいかなぁ」なんて、レフリーが思ったりするのって、ありなんじゃないかと思うのだ。機械が判定しているのではない、人間らしさ。それが選手とレフリーの信頼関係の上に成立するのって、楽しいと思う。そして、見ている方は、その微妙な判定を肴に何時間でも語り続けるのだ。
  以上、杓子定規には生きられない男の、曖昧なコラムでした。


○村上 晃一氏略歴    

村上晃一(むらかみ・こういち)
ラグビージャーナリスト。

1965年3月1日京都市生まれ。
京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。
現役時代のポジションは、CTB/FB。

86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より同誌編集長。98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)、スポーツヤア(角川書店)スポルティーバ(集英社)などに主にラグビーについて寄稿。「バッティングの正体」、「魔球の正体」(ベースボール・マガジン社)など野球の単行本編集も手がける。スカイパーフェクTV「ジェイスポーツ」のラグビー解説も98年より継続中。99年、03年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。
著書に「空飛ぶウイング」(洋泉社 99年9月発行)がある。

 
 
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