Column-コラム 61
 
Column

2011.12.11 コラム

 
第61回 「緩急ある攻防が見たい」
 

 ワールドカップで優勝し、世界王者の看板を引っ提げて来日したオールブラックスの選手たちが日本のトップリーグ入りして話題となった。なかでも、もっとも注目を集めているのが、リコーブラックラムズのマア・ノヌーだろう。オールブラックのジャージに、ドレッドヘアとオレンジのスパイクが印象的な CTB だ。

そのマア・ノヌーにインタビューする機会があった。日本ラグビー協会のファンクラブ組織「メンバーズクラブ会報誌」に掲載されるものだ。 182 p、 111 sというサイズとは思えない逆三角形の肉体は、胸板が驚くほど厚く、大腿部の筋肉が異様に盛り上がっていた。この体でスピーディーにステップを踏まれたら、捕まえるのは至難の業だろう。

10 月下旬に来日したばかりだが、日本ラグビーの印象を聞いてみると、「ファースト」という言葉が返ってきた。多くの来日選手が口にする言葉だ。単純に訳せば、「速い」ということになる。まるで、日本ラグビーは「素早い」、「すばしっこい」という褒め言葉のように聞こえる。しかし、これ、どちらかといえば、「バタバタしている」という意味に近い。テンポが速くて、緩急なく動きすぎではないかということ。実は、褒め言葉ではないわけだ。

日本ラグビー協会は、4H(低く、速く、激しく、走り勝つ)を標榜し、ジュニアからの一貫した強化を始めようとしている。「速く」をどう考えるかが問題だろう。今秋のワールドカップで日本を率いたジョン・カーワンはじめコーチ陣が「日本人は足の運びは速い」という言い方をした。小さなスペースで素早く動くことは優れているという意味だ。これは昭和 41 年に日本代表が本格強化を始めた時代からわかっていたことなのだが、この素早さを、大事な局面で生かす戦略が必要なのである。今回のワールドカップでは、日本代表にこの手の戦い方は見られなかった。

キックオフから試合終了まで走り続けることはできない。「走り勝つ」というのは、試合を通して走り勝つのではなく、ひとつの継続したプレーの中で、走り勝つということだととらえるべきかもしれない。日本人より短距離走も速く、体格も大きく、技術も優れた強豪国に勝つには、体力をうまく使いこなさなければならないわけだ。緩急をつけ、心理的な駆け引きをし、頭を使って勝つのである。

最近の日本ラグビーで気になるのは、あらかじめ準備したプレーを遂行しようとする傾向が強すぎることだ。先日、 1985 年の日本選手権、新日鉄釜石対同志社大学の試合を見直す機会があった。選手の体格、運動量、組織プレー、すべて今のほうが上だった。しかし、面白いのである。そこに、駆け引きがある。そして、釜石の SO 松尾雄治のプレーに緩急があるのだ。

まもなく、第 48 回全国大学選手権、第 91 回全国高校大会が開幕する。年が明ければ、トップリーグもクライマックスを迎える。日本一をかけた攻防の中に、観客がしびれるような駆け引き、そして緩急ある攻防が見たい。そして、チャンスと見るや素早くトライを獲り切るシーンがたくさん生まれてほしい。それが多くのラグビーファンを惹きつけ、観客席が埋まるきっかけになるはずだ。

ノヌーは言っていた。「日本は自分たちの手で日本のスタイルを作らなくては。我々はそれをサポートする立場ですから」。海外の選手に感心ばかりはしていられない。自分の頭で考え、自分たちにあったスタイルで勝利を追い求める姿が見たい。そして、これは本来、日本協会の幹部やコーチが考えることだが、 20 歳前後の若い選手たちを、 2019 年ワールドカップに向け、世界で勝つ選手に育てるためにはどうすればいいのか、ちょっとお節介なことも考えつつ、各全国大会を取材したいと思う。  
 

 

○村上 晃一氏略歴    

村上晃一(むらかみ・こういち)
ラグビージャーナリスト。

1965年3月1日京都市生まれ。
京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。
現役時代のポジションは、CTB/FB。

86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より同誌編集長。98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)、スポーツヤア(角川書店)スポルティーバ(集英社)などに主にラグビーについて寄稿。「バッティングの正体」、「魔球の正体」(ベースボール・マガジン社)など野球の単行本編集も手がける。スカイパーフェクTV「ジェイスポーツ」のラグビー解説も98年より継続中。99年、03年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。
著書に「空飛ぶウイング」(洋泉社 99年9月発行)がある。

 
 
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