Column-コラム 66
 
Column

2012.8.20コラム

 

第66回 「小さいからこそ、前へ」

 

 前回のコラムを書いた後、長野県の菅平高原、北海道の網走など夏合宿地を回った。その間に、僕のブログ「ラグビー愛好日記」のトークライブなどもあって、さまざまな立場のラグビー関係者と言葉をかわす機会に恵まれた。その中で心に残ったのが、「大きな選手に対して、ちょっとでも下がったら負ける」という言葉だった。

 7 月中旬、菅平高原では実に 11 年ぶりとなる日本代表強化合宿が行われた。「世界一のアタッキングラグビー」と、「世界一のフィットネス」を掲げ、菅平でも徹底的に鍛え上げたわけだが、臨時コーチとしてやってきたのが、日本屈指の総合格闘家である阪剛さんだった。低い姿勢で、素早く、力強く前に出るコツを指導したのだが、最後に選手達にこう話した。

「アメリカで戦っているとき、相手は身長 190 p以上で、体重 110 〜 120 sクラス。僕より小さな選手と戦ったことはありません。 2 mの相手を前に、ちょっとでも下がったら負ける。 1 pでも前に出るためには自信を持つこと。それは練習でしか身に着かない。相手より 100 倍練習して、絶対負けないという気持ちを持たないといけないんです」

 数日後、トークイベントで元日本代表の辻高志さんと話すことができた。辻さんは日本代表が世界と戦う心得を語った。「小さい選手が大きな選手と戦うときに大事なのは、真っ向勝負です。もし、目の前に 160 pの選手と 190 pの選手がいたら、迷わず 190 pのほうに当たりに行く。そういう選手になってほしい」。 167 p、 75 sの体格で、世界の強豪国と渡り合った辻さんだからこそ説得力があった。

 2 人に共通するのは、「小さな人間は下がってはいけない」という力強いメッセージだ。身体が小さいことを理由にコンタクトを避け続けていたら、永遠に前には行けないし、逃げた状態でタックルを受ければ仰向けに倒される。小さいからこそ、タックルは相手の懐に飛び込んで倒し、ボールを持てば逃げずに前に出る。タックルを受ける瞬間に、ステップワークで相手のタックルポイントを外すのは前に出るための動作なので逃げているわけでない。前進するために磨くべき技能だ。

 そういえば、現日本代表 PR 長江有祐選手(リコーブラックラムズ)は、身長 171 pである。それでも世界に通用するスクラムを組むばかりか、ボールを持って確実に前に出る。エディー・ジョーンズさんは言った。「低い姿勢を求めているのだから、身長が低いことはなんの問題もありません」。日本代表を目指す選手達にとって、嬉しい言葉ではないか。小さいからこそ、前へ。全国の小さな巨人たち。勇気をもって前に出よう。

 

○村上 晃一氏略歴    

村上晃一(むらかみ・こういち)
ラグビージャーナリスト。

1965年3月1日京都市生まれ。
京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。
現役時代のポジションは、CTB/FB。

86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より同誌編集長。98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)、スポーツヤア(角川書店)スポルティーバ(集英社)などに主にラグビーについて寄稿。「バッティングの正体」、「魔球の正体」(ベースボール・マガジン社)など野球の単行本編集も手がける。スカイパーフェクTV「ジェイスポーツ」のラグビー解説も98年より継続中。99年、03年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。
著書に「空飛ぶウイング」(洋泉社 99年9月発行)がある。

 
 
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